過去の出来事、技術、思想を未来の視点から再解釈するために書き残すブログメディア Hyperpast Journal(ハイパーパストジャーナル)。書き手は映像クリエイターのDAISUKE KOBAYASHIです。
1996年に公開された『トレインスポッティング』。僕は16歳の夏休みに、友達タツの家で、友達シュンが持ってきた海賊版VHSで観たのが最初だった。あまりにも衝撃を受けて、二回連続で観てしまった。それ以来、僕にとって青春の一部であり、一番好きな映画としてずっと君臨している映画でもある。
今回はそんなトレインスポッティング、そして20年後に奇跡的に同じキャストで公開された『T2』の二本の関係性について、僕なりの考察をしてみたいと思う。
この映画は90年代の若者文化を象徴する作品となった。ドラッグに溺れ、社会のレールから外れた4人の男たちが、刹那的な快楽を求めながらも、それぞれの選択をしていく。主人公レントンは仲間を裏切り、金を持ち逃げすることで「まともな人生」を手に入れることを決意する。しかし、2017年に公開された『T2 トレインスポッティング』では、そんな彼が再び故郷に戻り、20年の時を経た仲間たちと再会する。そこで浮かび上がるのは、夢見た未来を手に入れられなかった者たちの哀愁と、過去にしがみつくことしかできない現実だ。

かつて「Choose Life(人生を選べ)」と皮肉を込めて語られたスローガンは、『T2』で再び登場する。しかし、SNSやフェイクニュースに埋もれた現代社会において、その言葉はより空虚な響きを持つ。「人生を選べ」と言われても、選ぶべきものが見つからない。20年前、ドラッグの快楽に逃げていた彼らが、今度は過去の思い出に逃げようとしている。その姿は、単なる続編の物語ではなく、世代の変遷と時間の残酷さを浮き彫りにしている。
『トレインスポッティング』が公開された90年代のイギリスは、クール・ブリタニアと呼ばれる文化的ムーブメントの最盛期でもあった。ブリットポップ、現代アート、ファッション、映画といった分野で英国の若者文化が世界的に注目を浴び、当時のイギリスは新しい時代の活気に満ちていた。
知らない方が多いかもしれないが例えば、オアシスやブラーといったブリットポップバンドの成功はクール・ブリタニアの功績が大きいと言われている。要はオアシスは国家のブランディング戦略によって今の地位を得たのだ。また、ファットボーイ・スリムをはじめとするエレクトロニック・ミュージックの台頭は、クール・ブリタニアの象徴とも言える出来事だった。アートではダミアン・ハーストやYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスツ)が注目を集め、ファッションではアレキサンダー・マックイーンやステラ・マッカートニーが新たな潮流を生み出していた。
余談だが、クール・ジャパンはクール・ブリタニアの影響によるものだが、クール・ブリタニアは 「自然発生的な文化の勢い」 を政府が利用したのに対し、クール・ジャパンは 「政府主導のブランド戦略」 という違いがある。前者は短命ながらインパクトを残し、後者は継続しているが経済的成功には課題が多い。
つまり!個人クリエイターの活動を後押ししたイギリスと、天下り先に大企業を選んでいるのが日本という始末ということだ。さて、あなたならどっちを選ぶ?Choose Country。
話を戻して『T2』が描くのは、そうした時代の熱狂が過ぎ去り、取り残された者たちの物語である。クール・ブリタニアの象徴だったロンドンやエディンバラも変貌を遂げ、経済格差が広がる中で、レントンたちのような「かつての若者」が居場所を失っていく様子が強調されている。
レントンは逃げたはずだった。しかし、結局は何も成し遂げられなかった現実と向き合うことになる。
スパッドは相変わらずドラッグに依存し、人生に絶望しているが、物語を綴ることで過去を昇華しようとする。
サイモンはかつてのハスラー気質を失い、パブを細々と経営するも、心の中にはまだ復讐心がくすぶる。
そしてベグビーは、時代の変化を拒絶し、純粋な怒りのまま生き続ける。彼らは皆、過去を捨てきれず、それに縛られながらも、どうにかして生きようともがいている。
『T2』はノスタルジーと喪失感に満ちた作品だ。かつての映像や音楽が織り交ぜられ、観客は20年前の感覚に引き戻される。しかし、それは懐かしさを楽しむためのものではない。むしろ、「もう戻れない」という事実を痛感させるための演出なのである。レントンが最後に踊るシーンは、かつての自由と現在の空虚さが交錯する瞬間であり、彼らがどこにも行けなかったことを象徴している。
『トレインスポッティング』が「逃避の物語」だったとすれば、『T2』は「向き合う物語」である。
ダニー・ボイルの映像表現――20年の時を経た視覚的アプローチ
ベロニカという新しい存在――世代間の対比
『T2』に登場するベロニカは、物語の中で特異な立ち位置にある。彼女はサイモン(シック・ボーイ)の恋人でありながら、旧世代の男たちとは異なる視点を持つ存在として描かれる。彼女はレントンやサイモン、ベグビーのように過去に縛られることなく、冷静に彼らの滑稽さや未熟さを見抜いている。
ベロニカのキャラクターは、かつての若者だった彼らが「過去を生きる者」になってしまったことを際立たせる。彼女にとっては、レントンたちの生き方はもはや過去の遺物であり、彼らが「20年前と何も変わっていない」ことを示す鏡のような存在でもある。彼女は終盤で、彼らの計画を利用し、最終的には一人で逃げる道を選ぶ。
これこそが『トレインスポッティング』の精神を最も体現しているともいえる。「逃げる者が生き残る」という物語のテーマを、旧世代の男たちではなく、ベロニカが引き継いでいるのだ。
ベロニカの登場によって、『T2』は単なるノスタルジー映画ではなく、世代間の断絶と、新しい時代の到来を示唆する作品となっている。彼女はレントンたちの象徴的な「過去」とは異なる存在として、映画の中で最も合理的な選択をするだけでなく、彼らにとってのカタルシスそのものである。彼女は彼らの停滞した時間を映し出しつつも、その閉塞感を打破する存在として機能している。
これにより観客は、レントンたちがかつての若者であり、今は時代に取り残された存在であることを強く意識させられる。
『T2』に描かれる社会的背景――逃避から向き合う時代へ
90年代の『トレインスポッティング』が描いたのは、社会の底辺に生きる若者たちの反抗だった。彼らはドラッグという幻想に逃げることで、抑圧的な社会からの解放を夢見ていた。しかし、2017年の『T2』では、状況が大きく変わっている。彼らがかつて拒絶した社会はさらに加速度的に変化し、インターネットの普及、SNSの発展、経済格差の拡大が進んでいる。
また、作品内では映画の舞台であるエディンバラの街並みの変化が強調されている。かつて荒廃した街の片隅で生きていた彼らが、再び帰郷すると、街は再開発が進み、より現代的で洗練された姿になっている。しかし、彼らの内面は取り残されたままだ。
開発が進む都市の中で、過去に囚われた彼らの存在は、ますます時代遅れなものに見えてしまう。このコントラストは、社会が前に進む中で、個人が変わることの難しさを象徴しているように感じる。
このような視点を鮮やかに映像化するのが、監督ダニー・ボイルの手腕である。彼は『トレインスポッティング』以来、鋭い社会的視点とダイナミックな映像表現で知られており、本作でも都市の変貌と登場人物たちの内面の対比を巧みに演出している。特に色彩やカメラワークの使い方によって、時の流れと喪失感を強調し、視覚的にも物語のテーマを際立たせている。

僕が初めて『T2』を観たのはフランスのバスク地区、サン・ジャン・ド・リュズに滞在している時だった。たまたま泊まっていた宿の近くに小さな映画館があり、丁度『T2』が劇場公開しているタイミングだった。英語で理解が難しい部分もあるがすぐに観たい!と思い当たり前のように劇場に駆け込んだ。
当時はなんとも言えないノスタルジー映画だと感じ、いまいちピンと来なかったのが正直なところだが、データ版を購入し何度も観ていくうちにまるでスルメのように味を感じることとなり、本作の本当の意味を理解するようになってきた。
ただのノスタルジー映画ではない。20年という時間の概念をこれでもか!と言わんばかりにしっかりと描いている素晴らしい作品。
僕はトレインスポッティングが死ぬほど好きだけど、T2も同じぐらい好きになりつつある。未だ観ていない人は観ることをおすすめすると同時に、16歳と36歳でリアルタイムで観た僕の感覚は、絶対に理解されることはないのだろうなと思うと、少し寂しい気もする。
しかし、それが時間というやつなんだと思う。Choose Time.
Comments by daisuke kobayashi
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