過去の出来事、技術、思想を未来の視点から再解釈するために書き残すブログメディア Hyperpast Journal(ハイパーパストジャーナル)。書き手は映像クリエイターのDAISUKE KOBAYASHIです。

はじめに

#18ではあたらしい学問、ファーマコゲノミクス(Pharmacogenomics)について書いていきたいと思います。

「ヘルスラーニングジャーナル」とは?

ヘルスラーニングジャーナルとは、40代の僕が学んだ最新の健康・栄養に関する知識を整理し、記事化して発信していくシリーズです。

従来の栄養学から分子栄養学、そして精密栄養学へと進化している現在の流れを深掘りしながら進めています。

なぜ「ヘルスラーニングジャーナル」を書くのか?

健康に関する最新の研究は日々進化をしており、特に「精密栄養学」は個々の遺伝情報や腸内環境に基づいた新たな健康管理の鍵となっています。僕自身が最前線で学び、実践し記事にまとめることで、ウイルス対策やブレインフォグ、倦怠感など、従来の医療では解決しにくい症状の改善、要は「名もなき病」の対策・改善につなげたいと考えているのです。

みなさんもぜひ学び、実践し、より健康的で生産性のある未来を僕と一緒に目指しましょう!

はじめに

かつて、薬は万人に同じように処方されていました。しかし、未来の医療では「あなたの遺伝子に合わせた薬」が当たり前になります。これは決してSFではなく、ファーマコゲノミクス(Pharmacogenomics)という学問が、すでにその扉を開いています。

未来の人々は、「昔は試行錯誤で薬を選んでいたのですか?」と驚く時代が訪れることでしょう。しかし、その時代を生きる私たちは今、転換点に立っています。科学とテクノロジーの進歩により、従来の画一的な医療は終わりを迎え、個別化医療(Precision Medicine)の時代が到来しつつあります。

ファーマコゲノミクスとは?

「ファーマコゲノミクス」とは、遺伝情報を活用して個人に最適な薬を選び、効果を最大化し、副作用を最小限に抑えることを目的とする学問です。「薬理学(Pharmacology)」と「ゲノミクス(Genomics)」を組み合わせたこの分野は、近年のゲノム研究の進展とともに急速に発展しています。

なぜ重要なのか?

同じ薬を服用しても、人によって効果の出方が異なるのはなぜでしょうか?それは、薬の吸収、分解、排泄のプロセスが個人の遺伝子によって異なるためです。

例えば、市販の鎮痛剤「バファリン」は、アスピリン(解熱鎮痛成分)とダイバッファー(制酸成分)の2つの成分から成り立っています。ある人はアスピリンの効果が十分に発揮され、すぐに痛みが和らぐ一方で、別の人は代謝酵素の違いによって効果が出にくいことがあります。また、制酸成分がうまく働かず、胃の負担が大きくなる人もいます。

子どもの頃に飲んでみたけど全く効かなかった!なんて経験は誰にでもあるのではないでしょうか?これはまさにそういうことなのです。

従来の医療では、「標準的な投与量」を基準にしていたため、副作用が強く出る人もいれば、ほとんど効かない人もいました。ファーマコゲノミクスは、このような個人差を事前に把握し、最適な薬や投与量を決めることで、より効果的で安全な治療を可能にします。

ファーマコゲノミクスは、この問題を解決する可能性を持っています。遺伝子検査を行うことで、個人ごとに最適な薬の種類や投与量を決めることができます。これにより、無駄な試行錯誤を減らし、より効果的で安全な治療が可能になります。

具体的な活用例 ― 未来の医療はこう変わる

がん治療

がん治療の分野では、すでにファーマコゲノミクスが活用されている代表的な例があります。乳がん治療薬「ハーセプチン(トラスツズマブ)」は、HER2遺伝子を持つ患者にのみ効果があることが分かっています。そのため、乳がん患者の治療を開始する前に遺伝子検査を行い、HER2が陽性であるかどうかを確認することで、効果のある治療を選択できます。

このアプローチにより、「効くかどうか分からないまま治療を試す」という従来の手法が不要になり、最初から効果の高い治療を行うことが可能になります。

抗凝固薬ワルファリン

血栓予防に用いられる「ワルファリン」という抗凝固薬も、ファーマコゲノミクスによる最適化が求められる薬の一つです。この薬の効果は、CYP2C9やVKORC1という遺伝子の違いによって大きく変わることが知られています。

特定の遺伝子変異を持つ患者では、ワルファリンの代謝が遅くなり、薬が体内に長く留まりすぎることで、過剰な出血を引き起こすリスクがあります。逆に、代謝が速すぎる場合、十分な効果が得られない可能性があります。遺伝子検査を行うことで、最適な投与量を個別に調整できるため、安全かつ効果的な治療が可能になります。

精神疾患治療

うつ病や統合失調症の治療に使用される抗うつ薬(SSRI)も、遺伝的要因によって効果が変わることが分かっています。特に、CYP2C19やCYP2D6といった代謝酵素に関連する遺伝子が影響を与えます。

例えば、CYP2C19の活性が高い人は、抗うつ薬を速く代謝してしまい、薬が効きにくいです。一方で、代謝が遅い人は薬が体内に長く留まり、副作用が強く出ることがあります。これを事前に知ることで、より適切な薬の選択や投与量の調整ができるようになります。

ファーマコゲノミクスと精密栄養学 ― 食事と薬の未来

ファーマコゲノミクスは、精密栄養学(Precision Nutrition)とも深い関係があります。

例えば、カフェインの代謝速度は個人の遺伝子によって異なります。「CYP1A2遺伝子」の活性が高い人はカフェインを素早く分解できるため、コーヒーを飲んでもすぐに覚醒効果が薄れ、夜に飲んでも眠りに影響しにくい傾向があります。一方で、「CYP1A2遺伝子」の活性が低い人はカフェインの代謝が遅いため、同じ量を摂取しても長時間効果が持続し、少量でも動悸や不眠といった副作用を感じやすくなります。

僕は寝る前にコーヒーを飲んでも余裕で寝られる体質なので、遺伝子はおそらくCYP1A2(シップワンエーツー)の活性が高いのでしょうし、妻は15時以降にカフェインを飲むと寝られなくなるそうです。ですのでCYP1A2が低いと予想されます。

このように、カフェインの影響を受けやすいかどうかは遺伝子によって決まるため、個人の特性に応じた摂取量の調整が重要になとなるのです。

ですので「カフェインは…」などとざっくりとした説明にはなんの意味も成さず、「あなたにとってカフェインは…」と今以上に個人化していくことが重要視される時代が訪れると予想ができます。 時代は「共有」から「個別化」へと切り替わっていくのではないかとも感じています。面白いですね。

この知識を応用すれば、「あなたに合った食事療法」「最適な栄養素の摂取量」も遺伝情報を基にカスタマイズできます。つまり、未来では薬だけでなく、食事も遺伝子情報に基づいて最適化される時代がやってきます。

終わりに:個別化医療が当たり前になる世界

現代の私たちは、病気になった際に「とりあえず効きそうな薬を飲む」ことが一般的です。しかし、ファーマコゲノミクスの発展により、将来的には「あなたに最適な薬と食事が最初から決められている」時代が訪れるでしょう。

未来の医療は、「試行錯誤のない最適解」へと進化していきます。私たちは、その変化の最前線にいるのかもしれません。すごい時代ですね!

#19ではビタミンCについて書いていきたいと思います!

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